訪問リハビリテーションについて 第15話

2022年06月14日 こころ院長ブログ

誤嚥性肺炎のリスクがあるから、飲食中止、経鼻胃管・胃瘻・点滴にします。それを拒否するなら、寿命として、そのまま見送ります(餓死)は正しいの?

残念ながら、理想と現実は、乖離しており、上記の問いについては、かなり多くの急性期病院、亜急性期病院・回復期病院、療養型病院、老人施設、在宅で採用されている考え方です。

考え方自体は、誤りではないと思います。誤嚥とは、本来、食堂に入り消化管へ向かうべきものが、気道に入ることで起こります。飲食をしないことで、リスクを軽減することできます。

ですが、本当に、それで完璧に誤嚥が防げるのでしょうか?

否。

人は、毎日、1~1.5Lもの唾液を分泌しています。これはどこへ行くのか、全部外へ吐き出す、サクションで吸引するという事でなければ、当然食道を経由して消化管にいき、再吸収などをされます。

つまり、少なくとも唾液により、毎日誤嚥するリスクがあるという事です。

もちろん、飲食物直接や飲食により誘発される唾液分泌の分を考慮すれば、格段にリスクが軽減されています。

ですが、絶飲食にしても誤嚥性肺炎は避けられないという事です。

誤嚥性肺炎を防ぐために、絶飲食にすべきかどうか?

それは、目線をどこに置くかで、正解とおもわれるものが変わってきます。

もし、今、そのリスクを回避して、いつか、リスクを軽減することができて、その時は、飲食を再開できる、ということなら、それは、限りなく正解かもしれません。

しかし、誤嚥性肺炎のリスクがある高齢者が、リスク回避の為だけに絶飲食を選択する医療従事者の下で、これから先、リスクがなくなること、減少することがありますか?

おそらくは、かなり可能性が少ないのではないでしょうか?

リスク回避第一選択の医療従事者が、これから、この患者さんの飲食を勧めるために、積極的な、チャレンジングな嚥下機能改善の治療プログラムを立ててくれるとは、ちょっと考えづらい。

現実的には、栄養投与以外は、何もしないのではないでしょうか。何もしなければ、寝たきりでいると歩けなくなるように、衰える一方、リスクは増える一方。(まぁ、実は、脳卒中などの後遺症では、自然回復という部分もあるので、安静にしているだけで改善していく部分もあるにはあります。また、唾液を飲み込むことで、自然訓練も少なからず行われてはいます。)

だとしたら、この患者さんは、もう死ぬまで何も飲み食いするな、と言われていることと同じですね。けど、これ、本当に正解ですか?

患者さん本人とご家族が希望されるなら、正解です。

ですが、もし私が、患者さん自身もしくは家族なら、場合によっては、NO、と言います。

飲食は、人生の最大の楽しみの一つではないでしょうか?

もし私が、今から死ぬまで飲食禁止と言われたら、絶望です。絶 & 望 です。

ただでさえ病気で弱っているのに、生きる気力がなくなります。生命力・免疫力の源が枯渇します。

それで、細々と肺炎を起こさないように生きることの意味を見出せるかな、自信が無い。他の楽しみが見つけられるかな?

そもそも、唾液が毎日1L以上出てくる以上、そのすべてを吐き出すか、喉頭分離でもあしない限り、誤嚥のリスクはZEROにはならない。なら、少しでもいいから、味のするものを食したいと思わないだろうか?

私は、当クリニックは、最期まで、飲食することを提案したい。しています。

本人に、もし可能なら何が食べたいか、飲みたいかを確認して、それを目標にプランニングしながら、言語聴覚士による嚥下訓練を行いながら、少しでも少しずつでも、形態を味を調え、飲食を勧める、少しずつアップできないかを常に模索する。

たとえ、誤嚥性肺炎になったとしても、治療すればいい、そのリスクはあることは包み隠さず話して、同意を得たうえで、可能な限り安全性を追求したうえで、チャレンジしたい。

生きることは、リスクである。だから、食べることはリスクである。それでも、食べることは幸せの一つである。

たとえ、最期の最期に、結局は、本当の目標とする飲食物が口にできなかったとしても、その最後の瞬間までそれを夢に見ながら努力する、その人生と、ある時から絶望した人生、同じ時間を生きたとしたら、どちらが、本人にとって、家族にとって豊かな人生だっただろうか。頑張ったけど、だめだったことと、頑張らずに諦めたことは、結果が同じでも意味は異なると思う。

最期までベストを尽くしたのかどうか。

最期の瞬間に、少しでも思い残すことが減るように。

医師も看護師も療法士も、クリニックも病院も、今や、リスクは犯したがらない。

何かあればすぐに訴訟になる。もめる。炎上する。

守りに入れば、いざこざは起きにくいのかもしれないが、それにより、割を食っているのは患者さんや家族の方かもしれない。

本当は、もっとしてあげられることがあったのでは?

させてあげることができたのでは?

そんな後悔を少しでも減らしたい。

在宅医療、介護を手掛ける人間なら、食べるという事をもっと真剣に考えるべきだと想い、口でばっかり偉そうなことを言わないで、それを実際に実現して見せるために、自分のクリニックを立ち上げたと言っても過言ではない。

うちのクリニックができるんだから、他のところもやってみなよということで、世の中の最期の瞬間までに、少しでも好きなものを食したいという願いが、少しでも多くかなえられるように、まずは、自分たちがリスクを背負いながら、世間に示していきたい。